ま え が き

 近年の高校教育において,科目の選択性が広くなったことや大学入試が多様化されたことなどによって,自然科学の分野を専門とする学生であっても,数学や理科の履修内容に大きな違いが生じてきている.その結果この分野を専門とする学生なら是非知っておきたい基礎的内容が学習されていないことも起こっている.そのため大学初年時において,これらを埋め合わせ,さらに基礎を固めておく必要がある.

 自然科学系の専門諸分野からの数学に対する要請は,「道具としての数学」,「現象を記述する言葉としての数学」,「すぐに役に立つ数学」などのようである.また,自然科学の基礎として最も多く使われている数学の分野は,微分積分学,線形数学及び統計学であろう.そこでこの3分野の教科書を提供して初年時教育に資することとした.これらの分野を使う立場から,証明等はできるだけ省略し論理的厳密性には余りこだわらないで中心のテーマがわかりやすいようにした.

 さて,本書では統計学を扱っている.この分野は高校数学の確率分布や統計処理に対応する分野である.日最高気温と最低気温などの気象データ,ある製品の毎月の販売量,家計調査,機械受注調査,世論調査など毎日毎日様々な種類の統計データが大量に作られている.これらのデータから如何にして良質な情報を引き出し,それをどのように生活等に活用していけばよいか.情報化社会において身に付けなければならない事柄の1つである.統計学はデータの中から有益な情報を引き出すための手段を提供してくれる.現在ではパソコンの統計解析ソフトを利用すると,データ入力と同時に即結果が出力される.しかし,その出力結果をそのまま利用することはともすると危険な場合がある.その裏には利用できるための条件が潜んでいるからである.このことから,統計的手法に関する基本的な知識を習得することは大切である.

 本書は講義用のテキストとして,また予習・復習用の参考書として利用できるように工夫してある.各章の内容は講義を通じて理解し,講義後復習をしてほしい.その際,自分の理解が正しいのかどうか点検する必要がある。だいたいにおいて何かすっきりしない気持ちのときは理解できていないと思った方がよい.``あっそうか"という感じのつかめるまで良く考えることが大切である.演習の時間があればそこで教師に指摘してもらうこともできるが,それはごく限られている.そこで,各節の終わりに設けた問題で確かめてみることを勧める.間違いが発見されたらすぐに該当する箇所を調べてみることである.単純な計算違いか,あるいは理解を誤ったかを確認することである.間違いの原因がどうしてもわからなかったら友人や教師に質問することを勧める.自分にとって難しいところは友人にとっても大抵そうであるし,また友人同士で議論することはお互いに有益なことである.誤った理解を放置しておくと大事故につながるからくれぐれも注意するように.注意する必要がある場所には
キケン ! のマークが付けてある.

 本書で一応の基礎はできるが,さらに進んだ内容を理解したい読者のために巻末に参考文献を挙げておく.

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