角 田 山 の う た 2005

                                                                                                                  2004, 2003
                                                                                                                  2006

                                     

                           佐潟から角田山を望む

                             歌の光明 
                                                  地を おほい   
                             歌の息吹 
                                                  天に 漂う
                             岩をつんざき 激しくたばしる  
                           歌の 妙なる調べ
                                   ギーターンジャリ (タゴール)



1. 1月3日 稲島登山口から 晴れ 最高気温9度
 
   久しぶりに良く晴れた。1月に登山は初めてである。晴れて日射しがまぶしいが北風は肌を
  刺す。この情景はチャイコフスキーの交響曲4番をムラヴィンスキーがレーニングラード
  フィルハーモニーを指揮したものがぴったり。 これは暗く深刻な内容の多いチャイコフスキーの
  曲の中ではもっとも情熱的な音楽である。弦が唸り,金管が雄叫びする。晴れ渡ったロシアの
  冬,凍てついた透明な冬,こころは熱く燃える。
   佐潟は渡り鳥とバードウオッチングの人でにぎやか。山も沢山の登山者でにぎわっていた。
  頂上付近は雪が多く,下山のとき滑ってころびそうで危険であった。



2. 1月23日 稲島登山口から 曇り 最高気温4度


                         たよりになるのは   くらかけつづきの雪ばかり
                         野はらもはやしも   ぽしゃぽしゃしたりくすんだりして
                            すこしもあてにならないので まことにあんな酵母のふうの
                            朧(おぼ)ろなふぶきではありますが ほのかなのぞみを送るのは
             くらかけ山の雪ばかりです
                                                                               くらかけ山の雪 (宮沢賢治)


      駐車場は車でいっぱい。登山愛好者は一年中登るらしい。下山してくる人を見ても特に変わった
      様子もないので安心して登る。頂上に近づくにつれ雪も多くなる。登山道の横にはロープが用意
      されている。佐渡の金北山(1173米)が輝く。観音堂前広場は雪で埋まっていたが,風がないの
      それほど寒くない。ベンチにすわりゆっくりと昼食を食べる。越後平野を見渡すと気分爽快,普段
      狭い視野で生活していたということか。星空を見上げたときの悠久感ほど大きくないがしばし広々
      とした空間にこころを遊ばす。下山のときロープなし,あるいはスパイクのある靴なしではとっ
      ても危険。鳥も虫も緑もなく,生命の営みの感じられない凍てついた白黒の世界,だがこういう厳
      しい世界もまた別の味わいがあってそれなりにいい。

           椿谷           お地蔵様寒そう              金北山(望遠レンズで) 


3. 1月29日 稲島登山口から 快晴 最高気温12度


         土曜日は快晴に恵まれ,明日は寒気団到来という予報なのでいつもと違い土曜に登る。20数年
      まえ新潟に転勤した頃は冬はほとんど毎日天候が悪くもっと沢山の雪が降った。冬の生活が楽
      になったのは嬉しいが,地球温暖化の影響と思うと喜んでばかりはいられない。
        観音堂前広場からの見晴らしは絶景。北から月山,飯豊連峰,その手前に五頭山,菅名岳,
      白山,粟ヶ岳,守門岳がくっきりと。 雪の飯豊 すみわたり 思わずえりを ただす

          7合目付近   観音堂広場から頂上へ  頂上の様子  広場からの飯豊山の眺め



4. 2月6日 稲島登山口から 曇り時々雪 最高気温3度

       
       毎年この時期になると聴きたくなる曲,シューベルトの冬の旅 Winterreise。
      今日はその情景がぴったりの日であった。 
      雪の野原を重く沈んだ気分で歩く,その情緒は Muller の詩に Schubert が死の1年前に
      作曲した冬の旅である。

          Gute Nacht                                            おやすみ
               Fremd bin ich eingezogen                          われはきたりぬ,旅人として
              Fremd zieh' wieder aus.                             われは過ぎゆきぬ,旅人として。
              Der Mai war mir geworgen                          はなさきぬれば おとめは
              Mit manchem Blumenstrauss.                      かたる おとめはかたる
              Das Maedchen sprach von Liebe,                 愛のことば,
              Die Mutter gar von Eh' --             愛のことば。
              Nun ist die Welt so trube,                           されどさびし このよのさま,
              Der Weg gehult in Schnee.                         ゆきにうもれし わがゆくみち。

       第1曲の Gute Nacht からはじまり Der Leiermann (辻音楽師)までの24曲である。
      最後の単純なメロディーの中に何と壮絶な絶望が歌われていることか。作曲された当時は余り
      の暗さに受け入れられなかったらしい。でもシューベルトはいづれ理解される日が来ると言って
      いたとか。Dietrich Fischer-Dieskau が Gerald Moore のピアノ伴奏で歌うので全曲約71分。
      ドイツリート(ドイツ歌曲)を聴くとドイツ語がこんなにソフトな響きを持つのかとビックリする。


       下山のとき観音堂から少し下ったところで転んだ。とっても急で滑り止めの無い箇所で,ス
      パイクをつけていないと危険である。ころんでそのまま谷底へ転落の可能性もあった。
      ふもとの稲島の田んぼに白鳥の群れがいっぱい集まっていた。近くの佐潟から飛来した
      ものであろう。

5. 2月13日 稲島登山口から 曇り時々雪 最高気温3度

       頂上に着く頃は上半身汗でびっしょり。しかししばらくするとその汗が冷たくなる。
              夏には木陰を提供してくれる,コメツガの木(?)に雪がかかり冬の情緒満点。
       観音堂で休憩していると,数人のグループが来て,先頭の人が下山コースでないところに行っ
       た。 「あそこからおりられるのですか?」と訊いたら,「雪のあるところは皆道だよ」
       といった。なるほど,その人のバックパックのうしろにはかんじきがぶら下がっていた。
       しかしそれでもとっても危険に思えるのだが。
       新潟市街方面が雪に煙って,かすかにビッグスワンがみえる。





6. 2月20日 稲島登山口から 小雨のち雪 最高気温4度

      
午前中時々降っていた小雨が雪に変化。 観音堂では海からの冷たい強風をもろに受けて
       昼食をすませるとそうそうに下山。あの夏の暑さが懐かしい。コメツガの木がいい木陰になって
       一眠りしたのが思い出される。しかしこのような厳しい冬の中にいるのもまた別の味わいが
       あっていい。



7. 3月6日 稲島登山口から 晴れのち曇り 最高気温5度

               午前の会議後すぐ角田山に向かう。久しぶりの好天気,だが風は冷たい。
               先週の雪で登山道は登り口から厚く雪に覆われている。
               林の中で立ち止まりこころ澄ますといろいろな音が聞こえて来る。
               風で雪の落ちる音,カラスの鳴き声,風のおと,谷川のせせらぎ,などなど,
        雪の下ではヘビやとかげたちも眠っていることだろう,死の世界ではなく森の呼吸
        も伝わってくる。 しばらくするとこころがこの風景の中にとけ込んで行き,この風景が
       こころの中に入ってくる・・・ような気分になる。


                                  


                                                 雪 山堂を擁して 樹影深し
                                    えんれい(軒先にさげた鈴)動かず 夜 沈沈
                                           閑かに 乱ちつを収めて 疑義を思う
                                                 一穂の青燈 万古の心
                                                                            (黄葉夕陽村舎詩)
 

8. 3月13日 稲島登山口から 雪 最高気温4度

      今年はいまだ真冬なみの寒い日が続いている。一昨年の3月16日には向陽道林前広場には
          ほとんど雪がなかったのに,ことしは下の右の写真のとおり 50cm ほどの雪に埋もれている。 
     頂上も雪に埋もれて人影がない。しかし,晴れれば日射しは強くなり木々はしっかりと春の芽吹き
     の準備をしている。



                       緑なす はこべは萌えず
                       若草も 藉(し)くによしなし
                       白銀(しろがね)の 衾(ふすま)の岡辺
                       日に溶けて 淡雪流る

                       暖かき 光はあれど
                       野に満つる 香りも知らず
                       浅くのみ 春は霞みて
                       麦の色 わずかに青し

                                       島崎 藤村


9. 3月20日 稲島登山口から 曇り 最高気温10度

         今年初めて雲雀の鳴き声を聞いた。人々も田園の仕事に取りかかり始めた。
         先週の雨で下の方の登山道の雪はすっかりとけてしまい,泥んこの道になっている。
         北国の春は急ぎ足でやってくる。

                           椿谷園にある不動堂と不動滝


10. 4月3日 稲島登山口から 曇り時々小雨 最高気温10度

      今日は山開きの日だそうだ(下に註釈あり)。登山道の雪もすっかりなくなり泥んこ道になっ
      ている。天候が悪く登山者は少ない。頂上は完全に霧に閉ざされていた。下界を見晴らした
      ときの広々とした開放感に浸れなかったのは少し残念。例年だと今の時期には片栗の花が
      見られるのに,今年はまだ蕾である。道端に熱帯に咲くような奇妙な花(?)をみつけた。こ
      れも雪割草の一つか?     
 

       [新潟日報 04月03日(日)から]年間約20万人が訪れる巻町の角田山(482メートル)の安全祈願祭が3日、同町稲
              島の 稲島薬師堂で行われた。本格的な登山シーズンを前に、町役場や観光関係者が登山客の安全と観光の振興
              を祈った。祈願祭には田辺新巻町長や稲島観光協会役員ら40人が参加。僧侶が読経する中、参加者は焼香をして
              手を合わせ、今シーズンも大勢の登山客が訪れ、事故が起こらないよう祈念した。


11. 4月9日 登り:稲島コース,下り:湯の腰コース 晴れ 最高気温20度

          春はイタリア語で primavera 春のほかに青春期という意味もある。イタリアにはこの名前の
      ミネラルウオーターがある。春のお花畑のラベルがきれいで美味しい水だった。
     今日は新入生合宿研修の中の行事の一つ角田山登山。若々しい元気なにぎやかな声とともに登山。
          通りすがる人々に「こんにちは!」「こんちは,っす」という元気な声が行き交う。
     ・・・そんななか自然界では
     枯れ草の林の中にひっそりと野生のスミレが一輪。厳しい冬を乗り越えてきた自然の中に咲いた
     スミレである。その素朴可憐な美しさは人工の大振りなスミレの比ではない。
     
                            春すみれ咲き 春を告げる      春なにゆえ 人は汝を待つ
                            楽しく悩ましき 春の夢         甘き恋 人の心酔わす
                            そは汝 すみれは咲く春

                                                                                                   白井鉄造

      VERDI のオペラ LA TRAVIATA (椿姫) の第1幕の Violetta のアリアは切なく涙をさそう。

        Ah, fors'e lui che l'anima       ああ,たぶんあの方だわ!おののきの中に 
        Solinga ne' tumuli           ひとりぼっちの魂が
        Goda sovente pingere         幾たびか神秘の絵の具で
        De' suoi colori occuli,         描き楽しんでいたのは
        Lui, che modesto e vigile       あの方だわ,控えめで注意深く
        All'egre soglie ascese,        悩める心の扉に現れ,
        E nuova febbre accese       恋いにあたしを目覚めさせ
        Destandomi all'amor !         新しい情熱を燃え立たせたのは!

    Viola はイタリア語でスミレでVioletta は Viola の小さいもの,小さいスミレである。日本人でもすみれ
    という名前の女性はいる。洋の東西を問わず同じ思いを抱くのであろう。
    ちなみに La Traviata の意味は「道を踏みはずした女」という意味であるが,一途で純真でまじめな
    情熱的な女性である。日本語ではどういう訳か椿姫と訳されている。



12. 4月17日 稲島登山口から 曇り 最高気温16度

     ふるさとの関東では梅が咲き,水仙が咲き,ユキヤナギが咲き,桜が咲き・・・と順をおって春は
     一歩一歩やって来る。だが北国の春は劇的にやって来る。梅,レンギョウ,ユキヤナギ,モクレン,
     コブシ,桜 ・・・が一斉に咲き出すのだ。この大きな歓びは支えきれない(サッカーで得点したと
     きのようだ!?)

                    あんずよ 花着け 地ぞ早に輝け
                    あんずよ花着け あんずよ燃えよ
                    ああ あんずよ花着け
                                               犀星

    角田山では今片栗の花があちこちで満開。片栗の花はシャイである,恥ずかしそうに下を向いて咲く。
    


                                        



12. 4月24日 宮前稲島登山口から 晴れ 最高気温16度


           佐潟では堤の桜が散りかけていた。岸の葦はまだ枯れたままだが,ネコヤナギは黄緑の
           小さな葉をつけていた。


                                         


            角田山案内パンフレットには7つの登山コースが紹介されているが,ある方から
            そこには載っていないいくつかのコースを教えてもらった。そのひとつ宮前登山道を初体験。
            これは花と林と海の夢のように美しいコースである。しばらく右手に日本海と佐渡を眺めながら
      新芽の林を進む。


                                         


                     2合目あたりで林のとぎれた間から佐渡と日本海が見渡せる。
                    小さないろいろな野草が春をうたっている。山桜とコブシは満開,カタクリはもう
          最後の花をつけている。下草は緑が増して木々の芽は生まれたばかりである。


       初めての登山道で頂上をめざすのは(数学の)研究に似ている。いつになったら頂上(結論)
       にたどり着けるか分からない。しばしば林にまぎれて道も見失う。一体自分はどの辺にいるのか?
       ひょとすると間違った道を歩んでいるのでないか?登り口を変えた方がいいのでないか?
       たまには途中とはいえ美しい情景に出会い気を奪われてこの辺でもいいかと満足していまうことも
       ある。それでも当初の頂上をめざしてこころ奮わせ自分を励ます。
                       すすみゆく道の遠さもおぼほえじ  高峰の月の見まくほしさに     (弁栄上人
       やがて突如頂上にたどりつく(研究ではこれは保証されていない),そのときの大きな歓びはし
       ばらく続く。余韻にひたりながら頂上から振り替えるとそれまでのルートが眺望でき歩んできた
       行程は一目瞭然。しばし感動に満たされて眺め入る。



                  下山のときに2合目あたりにある越前浜由来の碑・神社跡に寄る。手前に小さな池があり
         水芭蕉が清楚な花をつけていた。


                                         


13. 5月1日 登り灯台コース,下り桜尾根コース, 晴れ 最高気温30度

        今年初めての灯台コース。海抜0メートルの海辺から沢山の人が頂上をめざす。途中振り返え
        ると静かな日本海,湿度が高いせいか佐渡は見えない。危険な岩場がしばらく続く,こんなとこ
        ろで大地震に遭ったらどうしようと少し心細くなる。気温も上昇し心地よい汗をかく。頂上は昼食
        や休んだりする人々でにぎやか。
        帰りは桜尾根コース,もう桜は散りかけて若葉が出ている,その中で鶯が行く春をうたっている。


                         花鳥のために身をはふらかし,よろづのことおこたりがちなる人のありさまほど
                                               あはれにゆかしきものはあらじ。  蕪村

                 それにしても近年のあわただしい世相とは何という違いであろう。ゆとりがほしい。

14. 5月8日 稲島登山口から 曇り 最高気温19度


             漱石の草枕から: 山路を登りながら、こう考えた。に働けばが立つ。させば流さ
      れる。意地をせば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさがじると,安い所へ引
      越したくなる。どこへ越しても住みにくいとった時,詩が生れて,が出来る。・・・・・              

      漱石と同様登山の初めのうちは下界でのいろいろなことを考えながら登る,仕事のこと,雑用の
      こと,研究のこと・・・だがすこしずつ,ちょうど下界からの音も届かなくなる頃,日常生活の想念か
      ら離れ,自然の気に包まれてすっかり雑念はなくなる。気づけばただ自然に抱かれた自分を見
      出すだけのこともある。こころも体も大自然の中を逍遙する感になる。そのようなときそこに見つ
      けた一輪の純白の花の美しさ!(私は)そこに山があるから登るのでなく大自然の懐に抱かれる
      このすばらしさがあるからである。


15. 5月15日 宮前登山道 曇り 最高気温18度


     この時期毎年同じ思いにとらわれる,ラフマニノフの交響曲2番のあの,ノスタルジアとメランコリー
     にあふれた夢見るようなロマンティシズムの世界である。いつ果てるともないロシアロマンのうた,
     私にはとりわけ逝く春を惜しむ情として伝わってくる。
     これはまた浅野内匠頭の辞世の句
       「風さそふ 花よりも猶 我はまた 春の名残を いかにとやせん」
     に通じて儚い。
     時よ止まれ,とわに春であれ,といいたいが叶わぬこと。


16. 5月22日 稲島コース 曇り 最高気温26度

         郷里の田舎では今の時期,麦が黄色く実りなり雲雀が麦畑に巣をつくり,こどものころ
         そのたまごをみつけに遊び回った。雲雀が空から舞降りたその地点には巣はなく,降りて
         から少しあるいて巣に行く,と子供たちは雲雀の行動を見破っていた。
 
                       ひばりのす
                       みつけた
                       まだだれも知らない

                       あそこだ
                       水車小屋のわき
                       しんりょうしょの赤い屋根のみえる
                       あのむぎばたけだ

                       小さいたまごが 
                       五つならんでる
                       まだだれにもいわない

                                            木下夕爾


     タニウツギが咲き始めた,一方お地蔵様の所にはいまだに八重桜が咲いていた。緑
     の中,不動明王が怒りと慈悲の眼でみおろしている:



17. 5月29日 福井ほたるの里コース  曇り  最高気温21度

                いろいろある登山ルートのうちで一番長いルートで行程 3.2km である。
                近くにはじょんのび館や角田山自然館があり,登り口に平成福寿大観音がある。
                途中小山の上り下りがあり長い新緑の林の中を進む。
        若々しい木々が大きなエネルギーを与え心身共に元気になる。祖先達が長い間森の中で生
        活していた記録がDNAの中に伝わっている(ようだ)。


18. 6月5日 稲島コース  曇り  最高気温20度


       広場前にアザミが下界を見下ろして咲いている。あおすじアゲハのみごとなヤツが
       来たが少しもじっとしていないのでカメラに収まらない。


                                       

                 佐潟畔にハーブ園がある。ラベンダー,ポピーなど今花盛りである。園のそばに羊が飼わ
        れている。ここは平和な時がゆっくりと流れて行く・・・



19. 6月12日 稲島コース  曇り  最高気温24度
    

                 バイカウツギの花                                    ヤマエボシの花,白いのはバック
                                              の空ではありません花です。

                  今バイカウツギの花が見頃である。
                  バイカウツギとエゴの花でいつも連想するもの:  フォーレのレクエムである。
                  この花のように純白,純粋無垢な清澄な天国の音楽である。とりわけ IV ピエ・イエズス
         が美しい:


         Pie Jesus,  Domine, dona eis requiem     主よ,やさしきイエスよ,かれらにやすみを
                                     与えたまえ
         donna eis sempternam requiem               かれらにとわの休息を 与えたまえ


                  「私の死に対する想いは,幸福な開放感と来世の至福への憧れ」 とフォーレは言っている。 
         自分が死んだらフォーレのレクエムをかけてほしいというクラシックファンは多いそうだ。
                  (コルボ指揮,ベルン交響楽団のものが好き)

                  (注)バイカウツギ:落葉低木で、高さ2m位、2叉に分枝し、若枝にちぢれ毛がある。葉は対生し長さ4〜15cm、
           3本の脈が目立つ。 花は初夏5〜8個集散花序につき、径2〜3cm、萼弁、花弁ともに4枚ずつ雄蕊は20本くらい、
           花柱の先は4列している。香気がある。和名は花が梅の花をおもわせるところから梅花ウツギという。


20. 6月19日 宮前登山コース  晴れ  最高気温27度


                                          


         宮前コースはほとんど深い林の中である。利用者も少なく毎回途中2−3人しか出会わない。
               緑の中ひたすら歩く,ふと,あしもとを見ると白い花びらが落ちている,見上げると緑の中に純
        白のエゴの花が満開。気をつけて進むと,あちこちに見かけられる。頂上では満開少し前,
        日の光いっぱい浴びて咲いている。でも深い森の中ひっそりと咲いているほうが似合う。


21. 6月27日 稲島登山コース  晴れ  最高気温32度

        暑い,暑い,汗びっしょり。立ち止まったときの涼風のなんと心地よいことよ。
        森は深くエゾ紫陽花が緑の中でさわやか。

                    ほととぎすあすはあの山こえて行こう
                    わが路遠く山に入る山のみどりかな
                    分け入っても分け入っても青い山
                    分け入れば水音
                                       山頭火


22. 7月3日 宮前登山コース  晴れ  最高気温31度



                                           


                     僕は夏が好きだ
                     暑い,熱い,汗びしょになる。
                     しかし夏が好きだ
                     命みな燃える季節だからだ
                     森がもえる, 緑がもえる, 命がもえる
                     生きとし生けるものみな 
                     生をせいいっぱい歌っている 
                     

         もうエゴの花が実になっている。 鶯が鳴き地面にはとかげ名も知らぬ虫たちが動き回っ
         ている。 
         帰りに北国街道(何と印象的な名前だろう),稲島登山道へ入るところにある布目の名水を
         くんで帰る。弘法清水が有名であるが,ここも長い歴史があるらしい。


23. 7月9日 灯台コース  晴れ  最高気温29度



                                          


      灯台コースの登り口の岩場にオニユリが咲き始めた。 荒々しい急峻な崖に咲き,何かに怒り
      をぶつけているように見える。帰路は桜峰コースから途中横道にそれて誰とも会わないけもの
      みちを下山。その甲斐あってか,ふもとに下山したとき青筋アゲハのハット息をのむほど美しい
      やつに出会った。ただ石の道路に止まって,警戒心が強くすぐに動いてしまい近くからじっと撮
      ることは出来なかった。


24. 7月17日 福井ほたるの里コース  曇り  最高気温32度




                                            

                         3合目付近休憩所から五箇峠コースを望む

                           終日 長程 復た短程
                          一山行き尽くせば 一山青し
                                             唐の漢詩


         福井蛍の里コース登山口は新潟方面からは山の反対側なので時間がかかる。
         それにコース自体も長距離で時間がかかる。ということで1日がかりの登山となる。
         頂上での木陰をぬける風がきもちいい。昼飯のあと,しばしうたた寝。
         暑い日で飲んだ水も2リットルになる。
         日ごろの運動不足が反対にここちよい疲労になる。帰りに芭蕉が岡霊園に寄る。


25. 7月24日 宮前登山コース  晴れ  最高気温28度



                    


       ユリが咲きました。カサブランカに似ていますが,少し違うようですなんという名前でしょう?
              (ヤマユリだそうです,Grazie !)
       ユリの中でも一番豪華なもののようです。群生はしないでまるでテリトリーがあるかの如く
       ところところに咲いています。さすが王者の風格です。
       頂上での木陰の爽やかな風の通る場,でも登るまで暑いためか登山者は少ない。
       下山時にツクツクボウシを見かけた。よく見ないと見過ごしてしまいそう。
       アブラゼミと違いはねが透明で美しい。鳴き声も透き通る声で涼しさをよぶ。郷里の田舎で子供
       の頃よく捕まえようと追いかけたものでした。


26. 7月31日 宮前登山コース  曇り  最高気温32度



                                         

                             古今和歌集から
                               はちすばの にごりにしまぬ心もて なにかはつゆをたまとあざむく
                                                                                                   僧正遍昭
          いま佐潟のハスの花がみごろである。潟いっぱいに咲いている。
          先週に続いてユリの花をみたくて宮前コースに来る。先週さいていたものは
          もう散ってしまっていたが,蕾だったのが満開である。緑の森と白いユリが映えて
          美しくさわやか。下山は途中人の余り通らない横道にそれる,ヒグラシの
          蝉時雨。まるで音のにわか雨のシャワーを浴びたようで,さわやか。


27. 8月7日 稲島コース  曇り  最高気温32度


                                    

          ひまわりといえば,ロシアの大平原いっぱいに咲くひまわり。それと映画「ひまわり」
          とその美しい♪♪♪  なみだ、なみだ、ただなみだ。あまりにせつなく美しくかなしい。
                   ・・・ナポリでの愛の生活。狂気をよそおい兵役をのがれようとするが、分かってしまう。
                   そして夫はロシア戦線にかり出される。ミラノ駅での慟哭の見送り。戦後夫からは長い
                   間連絡がなく,イタリアからロシアを訪ねて行くソフィア・ローレン。そこで彼女がみた
                   ものは・・・ロシアの地で雪の中戦いに敗れ、死の寸前土地の女性に助けられ、その
                   女と結婚して生活している夫。ラストシーンの夫の悲しい目と、ソフィア・ローレンの強く
                   美しく、しかし悲しみに耐えた年月に曇ったような灰色の瞳。そして見渡す限りどこまで
                   も続く満開のひまわり,ひまわり。繰り返し流れるひまわりの音楽は、心に染み込んで
                   くるような美しさ。
                  しかも、ひまわりは亡くなった無数の兵士の眠る土の上に咲いているのだ。

            エゴの実       観音堂前のユリ     路にカジカ(?)    観音堂まえの花

28. 8月21日 宮前登山コース  晴れ  最高気温33度


        湿度が高く暑い。ふもとではサウナに入っているような感じだった。
        しかし,欅の葉がすこし黄色みを増してきた。秋の気配が・・・と思いつつ歩いていると
        山道のよこにはキツネのカミソリが咲いていた。
        ヒガンバナにしては少し小さいようだし時期的に早いなと思い人に訊いてみたらキツネのカミソリ
        という名前だとのこと。浦浜コースには沢山咲いていて,それを見ようと沢山の人が
        そのコースを行ったが,スズメバチに襲われたとか。頂上での涼風の吹き抜ける木陰の
        ひとときの安らかな時間。

                       そうこうするうちに夾竹桃も色褪せ
                       静かに日本の夏は去って行きます
                                         崔華国詩集から


29. 8月28日 灯台コース  晴れ  最高気温29度

         波打ち際に登山口があるのも妙な感じである  ときどき振り返り海を眺めながら 
         岩山をのぼる。  海に行き, 山に行き・・・          

               海行かば   水漬(みづ)く屍(かばね)
               山行かば   草生(くさむ)す屍
               大君(おおきみ)の  辺(へ)にこそ死なめ
               かえりみはせじ
                             万葉集第18巻, 大伴 家持 作

         太平洋戦争のころ作詞作曲されたのかと思っていたら,実は作詞は古く大伴家持である。
         作曲は信時 潔で昭和12年。太平洋戦争末期の大本営発表で玉砕を報道する
         際の曲に使用されたため、今日に至るまで悲壮感溢れる曲のイメージがある。戦後60年
         この曲に刻まれた歴史はあまりに重い。こんな風に歌が使われたとは大伴家持にとっては
         驚きであったろう。 おおきみとは大宇宙のいのちのみなもとの意ととりたい。


30. 9月25日 稲島コース  小雨  最高気温21度

         出張と重なり1ヶ月お休みした。

            少年老い易く学成り難し
            一寸の光陰軽んずべからず
            未だ覚めず池塘春草(ちとうしゅんそう)の夢
            階前の梧葉(ごよう)已(すで)に秋声

         山はもう秋の世界,時の流れの速さよ。
         人は時の流れを物質の運動(周囲の環境の変化)で感じる。
         ゆえに時の認識の方が運動の認識よりより深く根元的である。
         物質とは何かに哲学や科学は答えることはできない,まして時とは何
         かに答えることはできない。(こういう問ができるこは人間の進歩なのか,
         こんな問に答えられない程人間は未進化なのか)


31. 10月01日 稲島コース  小雨  最高気温22度


             私はあの日に信じていた---粗い草の上に
             身を投げすてて あてなく眼をそそぎながら
             秋を空にしづかに迎えるのだと
             秋はすすきの風に白く光ってと
                                          立原道造
 

             夢見るような世界をうたう道造だが,この詩のおわりは 
             激しい決意が語られている。でもなんだかやはりあまい。
             この秋は土日が雨が続きクリアーな写真がとれない
             たんぼにはそばの花がいまを盛りに咲いていた。


32. 10月9日 宮前登山コース  晴れ  最高気温22度

        久しぶりに晴れた日曜日。田んぼは稲刈りも終わり畑の緑はキャベツ,白菜,大根,ネギ,
        人参,ブロッコリーなど。
        登山口には猿に注意と掲示が出ていた,コオロギ,鈴虫の鳴き声がにぎやか。
        山道では足の細長い蜘蛛があちこちにいる,踏まないように注意。
        そろそろ冬支度に入りつつあることか。        
        昨日までの雨でキノコが生えたのか,白,茶色,赤など沢山見かけた。
        (白いのはスギヒラタケという毒キノコだったようです)
        今になっても咲く花がある,冬までに種は実るのかと気になる。
        桜の葉は茶色にアカシアは黄色に,赤い実をつけたのは何の木か。
        晴れた空のもと秋の光がまぶしく,人生の秋をうたう
        ブラームス交響曲4番が鳴り続ける。 
          朝比奈隆はブラームスについて語っていた
            「彼の芸術というのは多分にセンチメンタルなのでないでしょうか。
            こういう感情は若い人にはわからないだろうし,女性にも苦手のようですね。
            歳をとった男には心の中の宝のようになってくるんです。」


33. 10月16日 稲島コース  曇り  最高気温22度

         今朝までの雨で登山道はややぬかるんでいる。
         この秋は台風の被害もなく木々の葉のいたみはない。
         みごとな紅葉を期待出来そうだ。
         ふもとに仁箇堤という池(沼というべきか)がある。
         桜の名所。
         太古から忘れ去られたように静まりかえった池に釣り人が数人。

34. 10月30日 福井ほたるの里コース  曇り  最高気温17度

        今年の秋は土・日に天気が悪い。先週は2日とも本格的な雨。今日はかろじて
        午後晴れた。 ツクバネ,ウルシ,ナナカマドなどが紅葉,けやき,ブナは黄葉して
        いるなか,まだ緑の木々も多い。弱々しい秋の日射しと澄み切った青空のもと
        人の世のと自然界の無常の風をのせて,流れるのはまたしてもブルックナーの
        交響曲2番。アルプスを望むオーストリアの秋ばかりでなく,この日本の秋にもぴっ
        たりの曲である。


35. 11月6日 宮前登山コース  曇り  最高気温17度

          日本の秋の代表的な歌,もみじ。明治44年の作だそうだ。
          詩にもメロディーにも情景描写だけで情感はない,しかし描写はあざやかである。
          宮前登山道では,空を見上げればいろとりどりの葉たち,
          また,あしもとを見れば”道の上にも織る”である。

                                     一  秋の夕日に照る山紅葉、もみじ 
                                            濃いも薄いもかずある中に、
                                           松をいろどるかえでつたは、
                                           山のふもとの裾模樣すそもよう
                                     二、 たにの流に散り浮く紅葉、もみじ 
                                           波にゆられてはなれて寄つて、
                                           赤や黄色きいろの色さまざまに、
                                           水の上にも織るにしき


36. 11月23日 稲島コース  曇り時々雨  最高気温13度

                晴れ間があるかと思うと突然強い雨が降り出すという,初冬の新潟らしい天候であった。
                晴れたときの光のかがやきと紅葉がうつくしい。
        佐潟にはもう白鳥が飛来していた。潟の中は枯れたハス,岸辺は枯れた葦。鉛色の空に
        純白の白鳥はひときわ目立つ。下は望遠機能を使って撮影。

37. 12月11日 稲島コース  曇り時々雨  最高気温5度

                冬になると浮かぶうた,ロシア民謡のかずかず,トロイカ,黒い瞳,モスクワ郊外の夕べ,
                二つのギター,カチューシャ,バイカル湖のほとり,ともしび,百万本のバラ,
        ポールシュカ・ポーレなど:

                                           草原よ、草原   広い草原よ
                             駆けて行く英雄が  遠い昔の英雄が

                                         風が運んでゆく  そう、緑の草原を
                                         彼らの勇ましい歌   なつかしい歌

                                         風が残すのは   戦の誉れと
                                         ほこりまみれの路  遠くへ続く路

                                         草原よ、草原  多くの悲しみを見たことも
                                       血にまみれたこともあっただろう
                                         遠い 昔のこと


             今年は冬が早い,もう5合目より上はうっすらと雪である。
        頂上付近になると登山道は圧雪になっている。
        相変わらず登山者は多い,稲島登山口駐車場はいっぱいである。
        向陽道林横の山茶花が雪の中で咲いている。

38. 12月25日 稲島コース  曇り時々雪  最高気温4度

           例年になく積雪が多い。わずかに訪れた晴れ間に五頭山方面を望遠レンズで
           撮影。スギに雪がつもり重く垂れ下がっていて,足音で突然頭上に落ちてくる。
           下山はすべって危険なのでアイゼンを装着。
             冬山の情景:白黒の世界。無の世界。
           生活から非本質的なものをどんどん切り捨てて行く,
           すると到達する単純な世界。不思議と豊になるこころの世界,禅の世界。
           本来無一物。

                 『身は菩提樹に非ず 心は明鏡台に非ず
                           本来無一物 何の処にか塵埃を惹かん』 (慧能)