数学の魅力:鞍点

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数学の魅力:鞍点

高校までの数学では、一変数の関数 y=f(x) が扱われました。しかし、数学の基礎理論から自然科学、社会科学など多くの分野で,一変数だけでなく多変数関数を取り扱う必要があります。下のグラフで示した関数は,双曲放物面と呼ばれる2次曲面の1つを形成する

f(x,y)=x2-y2

という2変数実数値関数です。このグラフは,馬の鞍,つまり峠のような形をしていて,ちょうど尾根と谷にはさまれている場所を形成しています。このような状況を呈する場所(ここでは(x,y)=(0,0))を鞍部点あるいは鞍点と呼んでいます。微分すると零なのに、鞍点は谷底ではないので極小でなく,また丘の上でもないので極大でもない、ちょっと不思議な点です。極値問題では極値をとらない停留点とも呼ばれています。

[SaddlePt]

Figure 1: 2変数実数値関数 f(x,y)=x2-y2 のグラフ

この鞍点の歴史は古くて、微分方程式の解の記述、情報理論、幾何・代数構造の分類、力学系の研究などでも基本的道具となっています。いわば、どの数学に進んでも出会う風景の一つと言えるでしょう。

積分表示をもつ解析関数の漸近挙動を調べるためリーマンが導入し、ドバイにより完成された鞍点法とよばれるアイデアは、微分方程式の有力な解法の一つであり、今ではコンピュータで数値計算するときの必須の道具です。情報理論中の条件付の最適化問題では,鞍点が解を与えます。また,複数の意思決定主体の存在する状況を解析するゲーム理論においては,鞍点は均衡点という重要な解です。当然、応用は数学だけではありません。物理では流体力学で、化学では結晶構造決定で、鞍点はエネルギーを最小化する重要な点です。

数学の守備範囲の広さを示している1つの例と考えることができますね。