ドーナッツの表面を数学用語でトーラスといいます。誰でも見覚えのあるこの形が、多くの異なる分野の数学の出会いの場所になります。トーラスは数学の中でも、特別に豊かな構造をもっていると言えるのです。
円周の長さは小学校で教わりました。微積分を習い楕円の周の長さを求めようとすると、不定積分できません。実は、この積分は(変数を複素数にして)その逆関数を考えると二重の周期を持った関数になります。これを楕円関数といいます。この関数は自然にトーラスの上に存在するのです。大きい円と小さい円がそれぞれの周期です。ちょうど sinq が一個の周期をもち円の上に存在するように。これが楕円関数、楕円曲線のという巨大な対象の研究の始まりです。簡単な形でいえば
19世紀にアーベル、ヤコビをはじめとして著名な数学者がこの楕円関数・楕円曲線をめぐる発見の先陣争いをしました。その後も研究はどんどん発展し、近年ワイルズによって与えられたフェルマの定理の証明にも、楕円曲線の理論が本質的に用いられました。最近でも楕円曲線を用いた暗号理論という思いがけない応用も見いだされています。銀行から預金引き出しできる金属片を埋め込んだカードをしっているでしょう?この中にも、楕円曲線の理論が用いられているのです。
関連を表すと:
- 代数 : 3次方程式、群の構造、有理点、楕円関数体
- 幾何 : 穴が一つの閉じた曲面、3次曲線
- 解析 : 楕円関数、楕円積分
- 情報 : 楕円曲線暗号、符号理論
という感じでしょうか。そして果てしなく発展を続けているのです。
(字余り失敬)