写真を縮小コピーし、元の写真の上にはみ出ないように置きます。すると、どんな置き方をしても、必ず1点重なる場所があること、および、2点以上の点で重なることはないことが分かります。ただし重なる点の場所は置き方によって変化します。このような点は、重ねる操作で全く動かないので不動点と呼ばれています。写真で言うと、赤い点の場所が不動点です。
不動点もまた数学の中で大きな役割を果たしてきていました。もっとも有名なものは、ブラウワーの不動点定理です。直感的に説明しましょう。重ねる方の写真はゴムか粘土のようなものできていて伸縮、折り畳みなど全く自由とします。ただし写真を破るのはダメです。そして、はみ出さないよう重ねれば、上のような不動点が少なくとも一つ見つかることをブラウワーは示したのです。あなたには信じられますか?これがきっかけとなり、様々な不動点定理が研究され代数、幾何、解析、情報の全数学に大きな影響を与えています。たとえばレフシッツの不動点定理は代数幾何に、シャウダーの不動点定理は微分方程式に巨大な成果を与えました。
縮小写像に限ると不動点がただ一つになり、縮小を繰り返せば不動点が求められるので応用上も便利です。無限次元の空間の一般の縮小写像でも同様な不動点が見つかり、微分方程式、関数解析、最適化理論、フラクタル解析等に応用されています。それらの理論の展開の中で、写真を縮小コピーして置くということと似たような操作がでてくるというのが、なかなか面白いですね。
写真は新潟大学で毎年5月頃に咲くニセアカシアの花です。